「スマホを取り上げれば集中する」は本当か——取り上げる実験は行われていて、成績は上がらなかった

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「スマホさえ手放せば成績が上がる」。保護者から最も多く聞く前提です。

この前提は、実際に実験で検証されています。そして結果は、期待されているものとは違いました。

1. 相関としては、確かに負

まず、通説を支える証拠から。

48,490人を対象にした29研究のメタ分析では、問題的なスマートフォン使用と学業成績の間に負の関連(r = −0.110)が確認されています。しかもこの関連は小中学生で大きくなる傾向がありました[3]。

中国の11,831人を対象にした大規模調査では、より具体的です。

平日に2時間以上スマートフォンを使う生徒は、1時間未満の生徒と比べて、成績不振を報告するオッズが2.12倍。週末に5時間以上使う生徒は1.50倍。数学と英語のテスト得点も有意に低かった[9]

カナダの3,322人を小学3年・6年の標準学力テストまで追跡した前向きコホート研究でも、スクリーンタイムが1時間増えるごとに、上位の学力水準に達するオッズが9〜10%低下していました[15]。

ここまでは通説どおりです。

2. しかし、最大のメタ分析は「関連なし」と報告している

ところが、この分野で最も大規模なメタ分析の結論は違います。

23か国・5,599研究から抽出した58研究(メタ分析対象は30研究、106,653人)を統合した『JAMA Pediatrics』の研究です。

スクリーンメディア全体の使用時間は、学業成績と関連していなかった(効果量 = −0.29、95%信頼区間 −0.65〜0.08)[20]

信頼区間がゼロをまたいでいます。つまり統計的に有意ではありません。

ではどこで負の関連が出たのか。種類を分けたときです。

活動 総合成績との関連
テレビ視聴 −0.19(有意)
ビデオゲーム −0.15(有意)
スクリーン全体 有意差なし

著者らの結論はこうです。

各スクリーン活動は、学業成績との関連について個別に分析されるべきである[20]

「スマホ」という一括りが、そもそも粗すぎるということです。

3. 決定的な証拠:取り上げる実験

ここが本題です。「減らせば上がるのか」は、無作為化比較試験で直接検証されています。

実験①:スクリーンタイムを実際に減らした(N = 112)

数週間にわたる事前登録済みのフィールド実験です。グレースケール化(画面を白黒にする)と時間制限の自己設定を比較しました。

結果:グレースケール化は、実測のスクリーンタイムを有意に減少させました。介入は成功しています。

では成績は上がったか。

使用時間を減らすことが広範な利益をもたらすという一般的な信念とは対照的に、我々は使用削減が主観的幸福感および学業成績に及ぼす即時的な因果効果を見出さなかった[2]

減らすことには成功した。しかし成績は上がらなかった。

実験②:3週間、2時間以下に制限した(N = 111)

健康な学生111人を無作為に割り付け、3週間スクリーンタイムを1日2時間以下に制限した試験です。

効果は確かにありました。

指標 効果量(η²)
抑うつ症状 0.109
ストレス 0.085
幸福感 0.053
睡眠の質 0.048

著者らは「因果関係を示唆する」と結論しています[10]。

ただし注意してください。改善したのは精神的健康であり、学業成績は測定されていません。

そしてもう一つ重要な観察があります。

介入後、スクリーンタイムは急速に増加し、フォローアップ時には再び当初の水準に近づいていた[10]

3週間の制限は、終われば元に戻りました。

4. 学校で禁止した場合はどうか

イングランドの30校・1,227人を対象にした研究が、この問いに答えています。スマートフォンの使用を禁止する学校20校と、許可する学校10校を比較しました。

指標 結果
校内でのスマホ使用時間 禁止校のほうが0.67時間少ない(有意)
校内でのSNS使用時間 0.54時間少ない(有意)
平日・週末を通じた総使用時間 差なし
精神的幸福度 差なし

著者らの結論は率直です。

制限的な学校方針が、スマートフォンやSNSの全体的な使用量、あるいは青年の精神的幸福度の改善と関連するという証拠はない。この知見は、現行の形での学校内スマートフォン使用禁止方針を支持する証拠を提供しない[6]

校内では減る。しかし総量は変わらない。取り上げられた時間の分を、別の時間に取り返しているということです。

5. そもそも「減らす介入」はあまり効かない

39研究・95,033人を統合したメタ分析は、学校での介入の効果を測っています。

学校ベースの介入は、スクリーンタイムをわずかに減少させた(SMD = −0.10)[18]

−0.10は非常に小さい効果量です。

34研究を統合した別のメタ分析は、さらに示唆的な対比を示しています。

介入の対象 効果量
問題的な使用(依存的な使い方) d = 1.47(大きい)
スクリーンタイム(使用時間) d = 0.15(小さい)

介入は問題的なデジタル技術使用を減らすことには特に効果的だったが、スクリーンタイムを減らすことにはあまり効果的ではなかった[19]

「使い方の問題」は直せる。「使用時間」は直りにくい。

6. では、何が効いているのか

複数の研究が、媒介経路を特定しています。

第一に、睡眠。アルゼンチンの1,257人を対象にした構造方程式モデリングでは、経路が明確に描かれています。

ゲーム機の使用時間は睡眠時間と負に関連(−0.22)し、日中の眠気と正に関連(0.11)。睡眠時間は日中の眠気と負に関連(−0.27)し、日中の眠気が学業成績と負に関連(−0.18)していた[13]

スマホ → 睡眠減少 → 日中の眠気 → 成績低下、という連鎖です。

中国の17,150人を対象にした研究も同様で、睡眠時間・精神的健康・認知的パフォーマンスが主要な媒介経路でした[5][17]。

第二に、種類。同じ研究は、ネット・ゲームの負の影響がテレビより大きいことを示しています[5][17]。

第三に、そもそも他の要因のほうが大きい。米国の11,875人を対象にしたABCD研究は、こう報告しています。

スクリーンタイムと各アウトカムの効果量は控えめであり、社会経済的地位のほうが各アウトカムとより強く関連していた。(中略)観察された小さな効果量は、スクリーンタイムの増加が9〜10歳児に直接的な害を与えている可能性は低いことを示唆する[8]

7. 保護者が実際にできること

研究から実務に落とします。

① 「取り上げれば上がる」を期待しない。減らす実験は行われ、減らすことには成功したが、成績は上がりませんでした[2]。学校での禁止も、総使用量を変えませんでした[6]。

② 睡眠を守る。これが最も確度の高い介入です。研究が特定した経路は睡眠でした[13][5][17]。時間を減らすことより、寝る前に触らせないことのほうが、理屈が通っています。

③ 種類を分ける。全体の使用時間は成績と関連しませんでした。関連したのはテレビとゲームです[20]。調べ物や学習アプリと、ゲームを同じ「スマホ時間」として扱うのは粗すぎます。

④ 「依存的な使い方」なら介入は効く。問題的な使用への介入は d = 1.47 と大きな効果がありました[19]。使用時間ではなく、使い方が問題になっている場合は、対処する価値があります。

⑤ 短期の制限は、終われば戻る。3週間の制限後、使用時間は元の水準に戻りました[10]。一時的な取り上げは、一時的な効果しか生みません。

⑥ 精神的健康には効く可能性がある。3週間の制限で、抑うつ・ストレス・睡眠の質・幸福感が改善しました[10]。成績のためではなく、心身のために制限するなら、根拠はあります。

8. 当研究所の見解

「スマホを取り上げる」という判断は、成績を目的にするなら根拠が弱いと考えます。

実験は行われ、使用時間の削減には成功したうえで、学業成績への効果は検出されませんでした[2]。学校単位の禁止も、総使用量を変えていません[6]。

一方で、睡眠を守ることには明確な経路があり[13]、精神的健康には無作為化試験で効果が確認されています[10]。

したがって当研究所は、こう考えます。

  • 成績のために取り上げる——根拠が弱い。かつ関係の悪化という代償を払う
  • 睡眠のために、寝る前の時間帯だけ区切る——経路が特定されており、合理的
  • 依存的な使い方が見られる場合に介入する——効果量が大きく、合理的

「何時間か」ではなく「いつ使うか」「どう使うか」に焦点を移すほうが、研究とは整合します。

この記事の限界

無作為化試験の規模が小さい。取り上げる実験はN = 112[2]、N = 111[10]です。大規模ではありません。

学業成績を測った介入研究が少ない。39研究のメタ分析の著者自身が、「今後の研究は学業成績をアウトカムに含めるべきだ」と述べています[18]。つまりこの問いは、まだ十分に検証されていません。

対象年齢が偏っています。無作為化試験の対象は大学生でした[2][10]。中学生・高校生でも同じ結果になるかは不明です。

そして相関研究の多くは負の関連を報告しています[3][9][15]。因果がないと断定することもできません。

当研究所が確度が高いと考えるのは、次の2点です。

  • 減らすことに成功した実験でも、成績の向上は検出されなかった[2]
  • 効果の経路は睡眠である可能性が高い[13][5][17]

参考文献

[2] Digital Strategies for Screen Time Reduction: A Randomized Field Experiment (Laura Zimmermann et al., 2022, Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, DOI: 10.1089/cyber.2022.0027)

[3] Problematic smartphone use and academic achievement: A systematic review and meta-analysis (Adrian Paterna et al., 2024, Journal of Behavioral Addictions, DOI: 10.1556/2006.2024.00014)

[5] The relationship and mechanism of screen time and academic performance among adolescents: an empirical study based on CEPS (Xiaosu Feng et al., 2025, Frontiers in Public Health, DOI: 10.3389/fpubh.2025.1533327)

[6] School phone policies and their association with mental wellbeing, phone use, and social media use (SMART Schools) (Victoria A. Goodyear et al., 2025, The Lancet Regional Health – Europe, DOI: 10.1016/j.lanepe.2025.101211)

[8] Screen time and early adolescent mental health, academic, and social outcomes in 9- and 10-year old children (ABCD Study) (Katie N. Paulich et al., 2021, PLoS ONE, DOI: 10.1371/journal.pone.0256591)

[9] Prolonged Mobile Phone Use Is Associated with Poor Academic Performance in Adolescents (Xianchen Liu et al., 2020, Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, DOI: 10.1089/cyber.2019.0591)

[10] Smartphone screen time reduction improves mental health: a randomized controlled trial (C. Pieh et al., 2025, BMC Medicine, DOI: 10.1186/s12916-025-03944-z)

[13] Screen use, sleep duration, daytime somnolence, and academic failure in school-aged adolescents (D. Pérez-Chada et al., 2023, PLOS ONE, DOI: 10.1371/journal.pone.0281379)

[15] Screen Time and Standardized Academic Achievement Tests in Elementary School (Xuedi Li et al., 2025, JAMA Network Open, DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2025.37092)

[17] The association between adolescents’ recreational screen exposure and academic performance and its mediating mechanisms (Jianping Zhao et al., 2026, Frontiers in Public Health, DOI: 10.3389/fpubh.2026.1840524)

[18] The effectiveness of school-based interventions for reducing screen time – a systematic review and meta-analysis (N. Lai et al., 2025, Child and Adolescent Mental Health, DOI: 10.1111/camh.70022)

[19] The effectiveness of school-based interventions to reduce problematic digital technology use and screen time (M. Žmavc et al., 2025, Journal of Behavioral Addictions, DOI: 10.1556/2006.2025.00043)

[20] Association Between Screen Media Use and Academic Performance Among Children and Adolescents: A Systematic Review and Meta-analysis. (M. Adelantado-Renau et al., 2019, JAMA Pediatrics, DOI: 10.1001/jamapediatrics.2019.3176)


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